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小林嵯峨 舞踏譜
 
     
 

 

 

 

人知れず何処か遠くの地の底で、ささくれだったような、毛羽立っているような、動物の毛の手触りのする、ざわざわと鳥肌立つ、冷たく、そして熱い漆黒の、タールめいた暗黒。
今だかつて一度として開かれた事のなかった闇。
計り知れないエネルギーと謎を秘め地の底でぶるぶると震えながら眠り続けている。
大樹の根の先端の、その分子だけがわずかにそれに触れている。
そうしながら一体いつから眠り続けて来たのだろうか。
羽族の爪、羽根、羽ばたき、大蛇のとぐろの冷たい縛函数、鱗、水滴、なんらかの記号、それらの堆積。それは胸がわくわくする程の魅力に満ちながら反面とてつもなく危険な物なのかも知れない。


小林嵯峨『ウメの砂草』より

 

 

 

 

≪DOUBULE AURA/ダブルアウラ 進化するアウラ≫


半分夢・・・半分は夢・・・でも、あとの半分は・・・事実
“青蚊帳に写した幻燈のような幽霊”
   長い長い廊下の片隅に白くしょんぼりと蹲って、
ふいるむのように小さく新婚の夫婦の寝室をのぞいている。  太宰治『葉』
“月岡芳年の血に染まった腰巻をつけた幽霊” “長沢ろ雪の幽霊” “川鍋暁斎の幽霊”
フレル 気がふれる 魂振り 
「幽霊」は舞踏においては単に恨みや怨念の顕われとだけ捉えられているわけではない。
絶えず自己と他者との境界を、ある時には消滅させ、また、ある時には顕在させて、舞台上で踊る身体を保持しなければならない舞台者にとって身体を森羅万象、あらゆるものを通過させ得る“幽体”として捕らえる事は最も重要な事である。
擬似生命体‐ヒトと物質が、あるいは生と死が交じり合っているもの‐ホムンクルス
蛭子‐古事記・国産みの頃の死の匂い・イザナミ・イザナギ・黄泉の国・根の国・ふだらく・神の異常出産
蛹‐変態‐羽化(その間に行われる劇的なドラマ)

 

古代魚ラプカの記憶
人間の最も古い記憶には古代魚ラプカの記憶が組み込まれている。

 

眠る胎児の夢
胎児として母の子宮に宿されたその時、最初の相貌としてあらわれてくるのが、このラプカである。それはたしかに醜く怪異であると言えるのかも知れない。しかし人間は一度母の胎内でラプカであった。

 

アウラは身体をよぎる空気であり、パトスの招き寄せようとしている出来事の空気、その切迫、嵐の前の軽やかなそのよぎりであり、身体が今まさに苦痛や発作に陥らんとする瞬間の身体をよぎる息吹をさす。(J・ディディ・ユベルマン『アウラヒステリカ』)

 

“アウラ”は意識と無意識の境を超えたリーメンの彼方から訪れる。

 

ここ10年の歳月を私はこの世とあの世の狭間を往き来しつつ、彼岸に半分足をかけたまま生き続けてきた。そして、さまざまな妄想、幻覚、幻聴に襲われる。
何度も激しいめまいや、耳鳴り、また突然の意識の断絶やあるいは落下感覚に見舞われる。意識と無意識の境に終わりのない旅をし続ける。
ある時にはざわざわと毛羽立った空間に、さっと一陣の風が吹いて黒い人影が部屋の中に降りてきて畳の上に座った。ある時には満開の桜並木がいつのまにかトンネルになり、その暗黒世界をくぐり抜けた先に一人の帽子をかぶり、黒いコートを着て、うつむき加減に歩く人の姿があった。その足許には花々があふれ、一歩一歩踏み出す足が向かうその先には、光輝が満ち溢れていた。
あの時、その足は、確かに私をどこかへ導こうとしていたのだけれど、それはいったいどのような世界だったのだろう。

 

闇と光のアウラ。無意識の領域には暗黒のものが棲む。
しかし、暗黒のものたちは人間の記憶の集合であり、その源泉をどこまでも辿り続ければ、きっといつかそちらがわの世界からこちらがわへ、一本のスプーンがポーンと投げ入れられるだろう。強大なエネルギーを引き連れて“アウラ”がやって来るだろう。
いまだかつて会ったことのない自分が立っているにちがいない。

 

 

 

 

 
     
     
 
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